Tomonarism
<第5話>
「俺リンピック」

皆さんは運動会が好きですか?
僕は嫌いです。
今回は運動会の話を。

僕は小さい頃足がとても速くて、小学校1年生くらいの時は学年一といっても過言ではないほどでした。
俊足をいかして野球にサッカーに大活躍でした。
スポーツといったら俺、俺といったらスポーツ、そんな感じでした。
小学校1年生で50メートル8秒台。
これは相当速いですよ?
そうして時は過ぎて高校で50メートル8秒2。
これは相当遅いですよ?
そうです、僕の走るスピードは小一で既に完成していたのです。
小さい頃は速かった、大きくなると遅くなった、
のではなくみんなが速くなっていっただけなんです。
そんなこんなで僕は高校にはいるとすっかりスポーツとは無縁の男に成り下がっていたのです。
無論体育祭なんてもってのほかです。
リレーの選手?
馬鹿言っちゃいけないよ、そんな感じです。
しかし…高校二年の時、僕のクラスは変則クラスでした。
男13人、女35人、そんなクラスだったのです。
来たるべき体育祭に向けてリレーの選手を選ばなければいけなくなりまして、
その数5人。
5人と言ったら確率は約二分の一。
やばい…僕は青くなりました。
みんな俺のこと足速男だと思ってるんじゃあるまいな…
何で僕がそう思ったのかというと
スポーツテストの時に50メートルを走り終わった僕に向かって女子が何人か近づいてきて笑いながら
やるうと言ったからなのです。
やるう?
何を?
まさか俺が笑いを取るためにわざと遅く走ったと思っているのか?
その時はそこまで深く考えずにまかせろよなんて粋に答えてしまったのですが。
いかん…
選手枠はあと一人…
みんなが僕を見ます。
僕は勇気を出してこう言いました。
胸を張り、大きな態度でこう言ったのです。

俺ね、足遅いからよ…

なんて格好悪い辞退の仕方でしょうか。
しかしなりふりなんか構ってられません。
死活問題です。
しかし小田切さんという女の子は執拗に僕を選手にしたがります。
僕は怒ってこう言いました。

俺、選手に選んだらお前のこと恨むから。

情けない男です。
でもいいんだ。
いいんだこれで。
小田切さんはじゃあ補欠でいいでしょ?
補欠なら良いでしょって食い下がります。
補欠?
まあ、怪我する奴なんか居ないだろ。

おう

男らしく補欠選手になりました。
補欠ならな、うん、補欠なら。
怪我なんかねえ、しないでしょ普通?
したんだこれが。
馬鹿がよ、足怪我しちゃったの。
僕顔面蒼白。
どうする?
どうする俺?
俺足遅いよー?
小田切さん大嫌いだよ、
補欠なんかにしちゃってさ

その日から僕は口数がめっきり少なくなりました。
そして思いつきました、遅いなら、速くなればいい。
家につくと僕は姉ちゃんにこう言いました。

俺、今日から走るわ

すると姉ちゃん目を輝かせて

お姉ちゃんも走る、痩せたいから。

…まあいい。
一人よりね…
とにかくその日から兄弟で水上公園の周りを走る日々が始まりました。
やるだけやってみよう、そうさやるだけ。
痩せたがりの姉ちゃんと速くなりたい僕じゃ走るスピードが違います。
やるだけやってみよう、そうさやるだけ。

そして体育祭当日です。
はっきり言ってリレーが始まるまでの数時間。
僕は記憶が曖昧になってます。
それほど緊張していたんですなあ。
リレーが始まって盛り上がりが最高潮に達したとき、
第三走者の僕にバトンが渡されようとしています。
二人目の女子はもの凄い速さであっという間に5人を抜き去り
僕のクラスは只今2位。
女子がもの凄い形相で近づいてきます。
僕はその女子に心の中で転べ転べと祈ります。
しかしそんな思いとは裏腹にグングン近づいてきます。
やるしかない!
腹をくくりバトンを受け取りました!
さあ行くぞ!
僕の足が大地を蹴り、スピードに乗ったその時、
既に二人に抜かれてました。

まだ5歩ぐらいよ?
遅い!遅すぎる!
そして帰りたい!
しかし数十メートル先には次の走者が僕の持ってるバトンを待ち構えています。
やるしかない!
姉ちゃんとの特訓を思い出せ!
スピードを上げろ!
顔を上げたら更に2人に抜かれてました。
姉ちゃん!
この野郎!
お前は痩せたか?
俺はダメだ!
無駄だった!
よくよく考えれば僕はマラソンは速かった。
僕はトップスピードで走り続けることは人一倍できたのだ。
しかしそのスピードが遅かったのだ!
知ってたよ!
気づけば僕は二位でバトンを受け取り只今9位。
後ろにはあからさまに足の遅そうな奴一人。
負けてたまるか!
思えば低レベルでした。
僕はそのまま9位でバトンタッチ。
クラスはその後の頑張りも空しく10クラス中7位。
敗因は間違いなく僕にあります。
俺は呟いた、何事か呟きました。
クラスのみんなも僕に声が掛けられません。
すると小田切さんが僕の近くに来てこう言いました。

ごめんね

もうホントに泣きそうだった僕は、
実際涙をこらえていた僕は、
涙がまぶたに溜まっていた僕は小田切さんにこう言いました。

うるせえ

そう言って体育座りしました。

だから言っただろ、
だから遅いっていったじゃねえか

そう呟き続けました。
姉ちゃん、君は痩せたかい?
俺はダメだったよ…

…家に帰り、忘れようとしている僕に電話が掛かってきました。
小田切さんでした。
小田切さんはハアハア言ってました。
興奮しているわけではなく、ただ単に息を切らしている、そんな感じでした。

気合い入ってるね

そう言う僕に小田切さんはうん、入ってると言いました。

私、桜井君のこと好きなの。

小田切さんはそう言いました。
俺が50になったら50メートルのタイムを計ってみよう。
8秒台だったら良いな。
そうしたら同年代の奴らにこう言ってやろう。
俺、速いだろってさ