Tomonarism
<第7話>
「俺の我慢」

皆さんは普段我慢する時がありますか?僕はあります。
今回は我慢のお話を。

ついこの間の話なんですが、
駅から家までの帰り道、急にお腹が痛くなりまして。
朝からシクシクと微妙な痛さは感じていたんですが、
まあこれなら大丈夫だろう、みたいな?
地震だったら震度1?みたいな?
火山だったら休火山?みたいな?
たいして気にもとめていなかったんですがそれがいきなり大爆発しまして。
そりゃもう地震だったら震度7?みたいな?
火山だったら活火山?みたいな?
ああ、こりゃ終わりかなみたいな感じになりまして。
駅に引き返すのも中途半端な距離、家に帰るのも中途半端な距離、
つまり駅と家の中間地点で大爆発しやがったんです。
いっその事ここでやっちまうか?と思ったんですが、
僕の居たところは住宅街の真ん中、
しかも小学校が近いのでやんちゃな子供達がワンサカといらっしゃいます。

…ここじゃ出来ねえな…

当たり前だけどそう思いました。
帰ろう、そう決意した僕はお尻にキュッと力を入れ歩き出しました。
大丈夫、俺大人だよ?
鼻歌混じりに僕は歩き出したのです。
気丈な僕の表情とは裏腹に、お腹の中ではうんち工場フル回転で作業中です。
溶かせ!溶かせ!そんな感じです。
出口付近にある大きな鉄のような塊が僕の最後の砦です。
しかし今やその砦すらもうんち工場のみなさんの頑張りによって溶かされようとしています。
溶けるのが先か、家に着くのが先か。
かなりの真剣勝負です。
スピードを早めようとすると尻の力が弱まります。
尻の力を強めようとすると歩くスピードが遅くなります。
ああ!この葛藤!
体験した事のある人は分かると思いますが、痛さには波がありまして、
一回大きな波が来てそれを乗り切ればしばらく大丈夫になるものなんですよね。
波に呑み込まれたら全てが終わるわけですが。
その時も波に呑み込まれないよう細心の注意をしつつ、波の合間に歩を進める、
そんなクレバーな作戦で家路を急いだ訳ですが、段々波の感覚が短くなってきまして。

…歩く時ねえよ

そんな感じになってしまったのです。
まだ家までは100メートル位ある、コレはまずい。
どうする?どうするったってさあ、どうしようもないでしょ。
かなりの内股よ、そんでもってあからさまに痛みをこらえている顔してさあ。
ムフー、おおう、なんて呟きながら、たまに歩みを止める撲。
やっちゃうか!いや駄目だ、俺は大人だぞ、あの頃とは違うんだ。
あの時もこんな感じだったなあ、小学生の時さ、やっぱりあの時も帰り道に痛くなっちゃってね、
家庭科の授業で作った手作りキンチャク袋で
腰のあたりを押さえながら早歩きで家路を急いでいたなあ。
誰にも会いたくないよ、そんな僕の前に斉藤君が現れてね、一緒に帰ろうよだってさ。
楽しくなかったなあ帰り道。だって限界ラヴァーズよ?
あ、来た。って時あるじゃない?3秒に1回ね。
グルグルピーよ?お腹の中グルグルピー合唱団よ?
あ!って斉藤君が叫んだ。
あ!忘れ物した!ってさ。
斉藤君忘れ物取りに学校に戻っちゃった。
取り残された僕はゆっくりと家に向かって歩き出した。
だって全てが終わった後だったから。
斉藤君の、あ!が合図ね。レッツラドンね。
ダム決壊ね、堤防乗り越えたね。
僕の手作りキンチャク袋は変な色に染まってた。
空は真っ赤に染まっていた。
なんてオセンチな気持ちで心を落ち着かせようとしていた僕は完全に歩みを止めていた。
そんな事どうでもいいんだよ!問題は今だ!
あの頃とは違うんだ、俺は今完全なる大人だ。
とにかく歩こう、少しずつ、

やばい

脳が判断する前にその言葉が口から出始めるようになった。
急げ!うんち工場は急ピッチで製造を続けている。

歩け!歩け!
クネ クネ クネ クネ

変な歩きかたー
小学生の女の子が僕をみて言った。
だろ?
僕はクネクネしながら思った。
だろ?そうだろうよ。
関係ねえよ、お前誰だよ。

クネ クネ クネ クネ

あ、家が見えた。
その時だ!俺は大きな過ちを犯してしまった!
こういう時に気を付けなくてはいけないことは安心すること。
僕は身をもって知っていた。
家に入ってからが一番危険だと言うことを。
そんな初歩的なミスを犯してしまったのだ!
尻の筋肉がもの凄い勢いで緩む、と同時にか弱い僕の最終ラインが崩壊し始める。
耐えろ!耐えるんだ!…でも
どこに力入れればいいのよ!
下手なところに力を入れれば一気に終わりそうだ。
俺は悶えた。
人目を気にすることなく中野区で今最も悶えている人間になっていた。
細い!細すぎるラインだ!
どの位の時間が経ったろう。
何とか大丈夫ラインまで戻した僕は再び歩き始めた。
あれは家じゃない、あれは家じゃない。
誰に対して嘘をついているのかはもう分からなかったけど、僕はそう呟き続けた。
涙が出てきた。泣きながら僕は

クネ クネ クネ クネ

カギを開ける。家に入る。
ベルトを静かに外す。
何だ、まだまだ距離あるじゃん。
そんな嘘をつきながらズボンとパンツを脱いでいた。
足首で衣服は止まる。ヒヨコのように歩く。
走るか…いや…
もうちょっとだからこそ細心の注意を。
家に着くまでが遠足だ!
トイレのドアを開ける。

この野郎!

そう叫ぶと僕は便座にダイブした。
…俺は…成長した…
素直にそう思った。
斉藤君、君に見せたいよ。
我慢出来るようになった僕の姿を。
そうして僕は君にこう言うんだ。
お前なら、きっと耐えられないだろうぜってさ。