Tomonarism
<第10話>
「俺のプライド」

みなさんはプライドがありますか?
こんな事言うとギクってしちゃうかもしれませんけど誰でもプライド、自尊心は持っていると思います。
しかし日常
「俺はプライドがあるぜ!高いぜ!」
って言ってる奴に限って大したこと無い奴なので
言わないで胸の内に秘めながら生活していることでしょう。
と言うかプライドは常に意識するものではなく
何かの事柄があったときに意識する物なのでしょう。
今回はそんな話を。

僕は一年ぐらい前まで携帯買うならヒットショップで働いていました。
今は何とかっていう名前に変わりましたけどその当時はヒットショップでした。
ヒットショップの阿佐ヶ谷店に務めていた僕はその日、
ヘルプとして渋谷に行かされることになりました。
僕は渋谷が嫌いです、
以前渋谷を一日歩いていたら血尿が出たことがありました、
そう、気疲れです。
みんなが僕のことを見て
「あいつ街で言うなら新大久保」
そう言ってるような気がするんです。
でも命令された僕は仕方なく渋谷に向かいました。

ヘルプと言っても店舗のヘルプではなく、DMを出す際の住所シール貼りで僕は必要とされました。
場所はヒットショップ渋谷センター街店の二階、
従業員が休んだり何も分からないおじさんとかに売りつける用の昔型携帯が大量に保管されている所です。
そこには机があり、僕が行ったときにはもうすでに何人かの女の子(ギャル)が居ました。
僕は女の子(ギャル)がつけているギャッツビーでは確実に無い香水の匂いにむせかえりながらも席に着きました。
そして尋ねたのです。

「あの、僕が貼るシールって、どれですか?」と。

女の子(ギャル)は僕の方も見ないで

「わっかりませーん」

と何故か弾んだ口調で言いました。
俺があばれはっちゃくだったらお前の顔面ではっちゃける、
そう思いながらも僕はグッとこらえてシールを探し、貼りだしました。
そのうちにギャルの数は増え、全部で7人になりました。

僕は周りを見渡し、イカン…こりゃイカンと思いました。
僕の周りはギャルだらけ、部屋の中に小さな渋谷が出来始めていたのです。
超が大抵の言葉の頭に付く会話の中で僕は平常心を保つためにこの人達より凄いところを探しました。
そして僕は心の中で

「俺は魚の旬を知ってるんだぞ、今ならサンマだ。もしくは戻りガツオだ、あれは脂がのってて美味いんだぞ」

なんて事を言い続けました。
彼女たちの会話は誰からともなく始まり、グルグル面白いように回っていきます。
僕はいつ、この魚の人に会話が振られるかビクビクしていました。
そうです、僕は小心者なのです。
彼女たちは好きな芸能人の話をし出しました。
そしてその中の一人がこう言ったのです。

超フクヤママサハル好き。

超フクヤマ…
それはさておき僕はふーんと心の中で呟きました。
フクヤママサハル…人気があるのね、と。
すると女の子達が一気に盛り上がり始めました。
そしてその中の一人がこう言ったのです。

フクヤマのお尻だったら超舐められるよ

だってさ。
あたしもあたしもの大合唱よ。
何だよそれと思いながらも僕はあることに気が付きました。

待てよ…
俺って今…
居ないことになってないか?

そうです、彼女たちは僕の前でお下劣なことを言い始めやがったのです。
いやいやそんなんじゃないよ、
ただ彼女たちはそういう話がしたかっただけさ、という人も居るでしょう。
しかし考えてみてくれ、
例えばその中の誰かが僕に対して意識をしていたらそんな話を出来ないんじゃないかと僕は思うわけだ。
いや、思う。
例えば僕がもっとハンサムで、
例えばフクヤマであったとしたらそんな話は出来ないはずだ。
何故なら彼女たちは僕の横でそんな話をしているからだ。

何故…俺はフクヤマじゃないんだ…

じゃないよ、分かってるけどさそんなのは。
だけどその時の僕は完全に居ないことになってる、
もしくは居ても関係ない奴に成り下がっていたわけだ。
その時僕の中で何かが弾けた、
そう、いつもは隠し持っているプライドが表面に出てきてしまったんです。
ここにいたら渋谷で大量殺人が起こる!
そんなニュースを先読みした僕は慌てて外に出ようとして、
それでも何か言わなくちゃと思った僕は外に出る際に女の子達に

「すいません、ちょっとタバコ吸ってきます」

と言いました。
女の子達はそんな僕に返事すらせず、
僕の背後で「え?誰?」という、やっぱりな!って感じの声がしました。

外に出て煙草を吸い、ブラブラと散歩しました。
そして目の前にパチンコタワーが見えたのです。

バイト中だぞ、トモナリ。

分かってるけどもう座っちゃったもん!
僕はすでにパチンコ台に座っていました。
それから何時間が経ったでしょうか、疲れた僕は渋谷の店に戻りました。
するとそこには鬼のような顔をした社員が一人。

どこいってたんだ!

と僕を怒鳴り散らします。
僕は感情を殺し

「喫茶店でコーヒー飲んでたらいつのまにか寝ちゃいました」

と、どんな疲れ方をすればそんな行為が出来るのか?という天晴れな嘘をつきました。

シール、まだやりますか?

という僕に社員は

「もういい、帰れ」

とぶっきらぼうに言います。

帰ろう帰ろう、
そう身支度をしている僕にギャル達が近寄ってきます。
そして僕にこう言ったのです。

どこ行ってたの?みんなで心配してさがしちゃったじゃん

俺は切れた。
しかしプライドをさらけ出すのは何か無性に悔しい、
こっちが負けた気持ちになるからだ。
いや、実際負けているのだが胸の中がザワザワ波打っていた。
でも僕は彼女たちに対して

「ごめんなさーい」

と謝った。

僕は小心者だ、それは間違いない。
プライドを踏みにじられたときにそれに対して怒ることもできない。
そもそも僕が居なくなったことで彼女たちに対して本当に心配をかけたのかもしれない。
だとしたら非道いことをしてしまった。
僕は小心者だ、それは間違いない。
プライドの持ち方が間違っているのかも知れない、
そんなに僕は偉くない、
ちっとも僕は偉くないから。

それでも僕は思う、
いつもは顔をひっこめている自尊心が出てきたとき僕は思った。
俺は自分が卑下するほど自分のこと嫌いじゃなかったんだなあって。
俺はフクヤマじゃない、それがどうした。
君よ、もっと俺を踏みつぶせ。
俺が俺をもっと好きになるために。