Tomonarism
<第11話>
「俺の困った人」

みなさんは困った人が好きですか?
困った人の定義が難しいもんでハイ好きですとは言えないでしょうが、僕は嫌いです。
当たり前です。
今日は困った人の話を。

僕がゲームセンターでバイトをしていたときの話です。
そのバイト先は暇な店だったのでいつも店員は僕一人でした。
10時に店を開けて、昼の2時まで客が一人も入ってこない、
そんな事がよくあるようなゲームセンターだったのです。
その日も案の定暇で、僕は勝手に店のゲームをやり続け、
それにも飽きたのでカウンターに座りボーっとしていました。

その時です、
店の自動ドアが開き一人の和服を着た女の人が店内に駆け込んできました。
もの凄い形相です、
ふきだし付けるなら「期末試験前なのにこんな駄菓子屋で何やってんの!」
そんな怒った母ちゃんみたいな感じです。
その女の人は僕の方に猛ダッシュで近づき、
おもむろに僕に向かって何かを投げつけました。
知らないかもしれないけど恐怖新聞を配る新聞配達員が家に恐怖新聞を投げ込むような感じです、
知らないかもしれないけど。
そして女の人は僕を通り過ぎトイレに駆け込んでいきました。

…何だ?

僕はあっけにとられて呆然と投げつけられた物をしげしげと眺めました。
それは、昆布でした。

…昆布、投げる、和服、トイレ

すっかり脳波が乱れきった僕の前に商店街の人達が慌てて店内に入ってきました。
そしてそのうちの一人が僕に向かってこう言ったのです。

あの女どこ行った?

僕は訳が分からず、トイレを指さしました。
おじさんはあの女万引きして逃げやがった、と、
ちょっぴり興奮気味に言いながら出てきたら教えてよとゲームセンターから出ていきました。

…店の中には僕が家から持ってきた「今夜はブギーバッグ」が流れています。

それからどれぐらい時間が経ったでしょうか、
トイレのドアが開きあの和服女性が出てきました。
女性は店内に僕以外の人間が居ないことを確認すると安心した様子で

行った?

と尋ねてきました。

ハイ、行っちゃっいました、

と僕は言いながら
何で行っちゃうんだよ!と今更事の重大さに気づきました。

全くねえ

女の人は喋りだします。

全くねえ、私は何もしてないのに追っかけてくるの。
困っちゃう、ねえ、思わない?

って喋り続けます。

あんた、昆布投げたじゃない

って言いたかったけど言えませんでした。
女は喋り続けます。

あの乾物屋の主人はいっつもああなのよ、
私は何にもしてないのに目の敵にしてさあ、
あたしが何をしたって言うのよ困っちゃう、
ねえ思わない?

二人っきりの店内に彼女の声がこだまします。
黙ってる僕に彼女は言いました。

ねえ、私何で和服着てると思う?

知らねえよ!
知るかそんなの!
その微妙なクネクネ具合でそういう事を聞くのはよしてくれ!

そう思ったけどやっぱり言えずに僕は、

何でですかね?

と疑問に対して疑問で答えました。
すると彼女はこう言ったのです。

私、秘密警察なの。
だから和服なの。

…俺は凍った。

「ね?」

ね?ね?って何?
それに対する俺の答えは「うん」が適当か?
「そうだったんだ」が正解か?
ここでみなさん考えて下さい。
秘密警察って何ですか?
その疑問を俺は迷うことなくその秘密警察官に問いただしてみた。

国家機密だから。

女はそう言った。
…言っちゃってるじゃん!
ただのバイト君に!
もう秘密じゃないじゃん!
昆布投げたじゃん!

困惑する俺をよそに秘密警察は話し出した。
話によると朝方、ゴミ集積場でこの女が万引きした店の奥さんが近所の奥さんを集めて刃物を配っているという。
何とその奥さんはここら辺一体を武力で統率しようとしているらしいのだ!
その情報を入手した秘密警察は女秘密警察官を目立たぬように和服で現場に派遣し、監視させていたという。
しかし監視はばれてしまった!
乾物屋は女秘密警察官を追いつめる!
逃げろ!女秘密警察官!昆布を持って逃げるんだ!
…そして彼女は今ここにいるのである。

成る程、と俺は思った。
成る程、俺殺されちゃうな。

ふと外を見ると商店街の人達が遠巻きにこの店内を見ている。
俺は無言で助けを求める、
彼らは無言でそれを拒否する。

助けなさいよ!

しかし彼女は話し続けるのだ。
秘密警察官はきっと秘密であろう事柄をベラベラ喋り続けるのだ。
20分ほどして彼女は言った。

いい男ね

さあ来たぞ。
俺はそう思った。

はあ…ありがとうございます

と涙目で言う僕とそんな僕をシークレットアイで見続けるハニー(秘密)
店内にもう何周もしているCDの歌声が響く。

「ダンスフロアーに華やかな光 僕をそっと包むようなファンタジー
ブギーバック シェイキンアップ夜の始まりはとろける様なファンキーミュージック」

着物崩れちゃった、直して貰えるかしらこの後パトロールしなくちゃいけないから

「心変わりの相手は僕に決めなよ ロマンスのビッグヒッター グレイトシューター 踊り続けるなら」

あなたになら何でも話せそうよあなたいい人だから秘密守れるでしょ

「ブギーバック シェイキンアップ 夜の終わりには 二人きりのワンダーランド」

彼女の瞳が潤んで僕はこうなったらこいつ殺していいかしらって叫びそうになった。
こいつだったら情状酌量!
僕は裁判官の良心に身を委ねそうになった。

その時!
彼女は懐から刃物を取り出した!
俺はもう「ハイハイ、やっちゃいましょう性行為!性行為やっちゃいますよ!」な気分になった。
実際自ら脱ぎ出す寸前だったが良く見たらそれはナイフじゃなく100円玉だった。

…100円。

そのまま髪ボサボサのおそらく40代後半(秘密)警察官は脱衣麻雀のゲーム機に座り一心不乱にゲームをやりだした。

リーチ!(できません)リーチ!(できません)

彼女は必死にリーチのボタンを押す。すると機械が(できません)と即座に言い返す。
あの、まだリーチ出来ないんじゃないですか?とは言えません。

(できません)とか言うな、

俺は心の中で機械に向かって言い続けた。
頼むよ、いいじゃんリーチで、怒らせないでよと。
そして何十回目の(できません)の後で彼女は席を立ち、そのまま外に出ていった。

…助かった。何で助かったのか分かんないけど。
外にいた商店街の人達が入ってきた。

いやあ彼女おかしいんだよ、この辺じゃ有名人なの、参ったでしょ?

こいつらは何なんだ。遠巻きに眺め続け、救いの手も差し伸べず、
彼女が行ったら恐る恐る入ってきて文句を言う。
俺は泣きそうになりながらも

別に大したこと無かったですよ、

と言った。

今度来たらさあ、言ってやればいいんだよ

はげた頭の親父が僕に言う、
僕は何て言えば良いんですかと言い返す、
親父は一瞬考え込み

そこなんだよねえ

って言った。

俺は困った人が嫌いだ。
しかし困った人の定義は難しい。
だから大きなくくりで言わせて貰う。
大きな範囲で言わせて貰った。

お前より良い奴かもよ

親父達はなんだこいつって顔で店を出ていった。

また僕は店内に独りぼっちになった。
その後秘密の人は着替えて来た、
和服を脱いでノーブラにシースルーというパリコレぐらいでしか見ないような服を着てゲームセンターに現れた。
でももう僕には話しかけなかった、多分今は勤務時間外なんだろう。
音楽はまだ流れ続けていた、サラサラな髪の歌手がこんな歌を歌っていた

ほんのちょっと困ってるジューシーフルーツ一言で言えばね

秘密警察は俺を見た、
俺は思った。
ごめん、でもやっぱり困っちゃうぜってさ。